クラウドサービスが補助対象になる仕組み

デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)では、中小企業・小規模事業者が業務効率化のために導入するクラウドSaaS(Software as a Service)の利用料が補助対象経費として認められています。従来のパッケージソフトの購入費用だけでなく、月額・年額のサブスクリプション型サービスの利用料も補助の対象です。

ただし、すべてのクラウドサービスが対象になるわけではありません。補助対象となるためには、IT導入補助金の登録ツールリストに掲載され、かつIT導入支援事業者を通じて導入する必要があります。以下で補助範囲と対象外の条件を詳しく解説します。

補助範囲(初期+最大2年サブスク)

クラウドSaaSの補助対象経費には、以下の費用が含まれます。

補助対象となるクラウドSaaS関連費用

クラウド利用料

月額・年額のサブスクリプション費用(最大2年分)主要経費

初期設定費用

アカウント設定・データ移行・マスタ登録等の初期構築費導入時のみ

カスタマイズ費用

業務フローに合わせた設定変更・帳票カスタマイズ等導入時

導入研修費用

操作研修・マニュアル作成・オンボーディング支援IT導入支援事業者提供

導入コンサルティング

業務分析・要件定義・導入計画策定支援IT導入支援事業者提供

最大2年分のクラウド利用料が補助対象

クラウドSaaSの利用料は最大2年分が補助対象です。月額3万円のサービスであれば、2年間で72万円が補助対象経費となります。補助率1/2の場合、36万円の補助を受けられる計算です。ただし、2年を超える分の利用料は自己負担となるため、導入後のランニングコストも事前に見積もっておきましょう。

初期設定費用やカスタマイズ費用が補助対象に含まれるかどうかは、IT導入支援事業者が登録している「ITツール」の内容によって異なります。見積もり時にIT導入支援事業者に「初期費用・研修費用も補助対象に含めてほしい」と相談してください。

ストレージ単体は対象外

クラウドサービスの中でも、業務プロセスの改善に直結しないサービスは補助対象外です。特にストレージサービス単体(データ保管のみを目的としたサービス)は対象外となります。

補助対象外となるクラウドサービスの例

1. ストレージサービス単体:Dropbox、Google Drive、OneDrive等(データ保管のみの利用)
2. ホスティング・レンタルサーバー:AWSのEC2・S3単体、さくらVPS等(インフラのみ)
3. ドメイン・SSL証明書:ドメイン取得費用、SSL証明書購入費用
4. 個人利用向けサービス:個人用メール、SNSサービス等
5. 広告・マーケティングツール:Web広告運用ツール、SNS運用ツール(一部例外あり)

ただし、ストレージ機能が「業務ソフトウェアの一機能」として含まれている場合(例:freeeのファイル管理機能、Salesforceの添付ファイル機能)は、業務ソフトウェア全体として補助対象となります。単体のストレージサービスを別途契約する場合のみ対象外という判断です。

判断に迷ったらIT導入支援事業者に相談

「自社が導入したいサービスが補助対象になるか?」の判断はIT導入支援事業者に確認するのが最も確実です。IT導入補助金のポータルサイトでも登録済みツールを検索できますので、事前に確認しておきましょう。

カテゴリ別サービス例

デジタル化・AI導入補助金で導入できるクラウドSaaSを、業務カテゴリ別に紹介します。いずれも代表的なサービスの例であり、補助対象になるかどうかはIT導入補助金の登録ツールリストへの掲載状況によります。最新の対象ツールはIT導入補助金ポータルサイトで確認してください。

会計系SaaS

クラウド会計ソフトは、デジタル化・AI導入補助金で最も申請件数が多いカテゴリのひとつです。インボイス制度対応・電子帳簿保存法対応を目的とした導入が増えています。

サービス名月額目安主な特徴対象規模
freee会計1,980〜39,800円AI自動仕訳・オールインワン個人〜中小企業
マネーフォワードクラウド会計2,980〜4,980円ERP連携・拡張性が高い中小〜中堅企業
弥生会計オンライン2,166〜3,000円税理士連携・老舗の信頼性個人〜中小企業
勘定奉行クラウド要問合せ大企業向け・内部統制対応中堅〜大企業
PCA会計クラウド要問合せ製造業・建設業向け機能中小〜中堅企業

会計系SaaSの詳しい補助金申請方法についてはAI会計ソフトの補助金ガイドで解説しています。

勤怠管理系SaaS

勤怠管理のクラウド化は、労務コンプライアンスの強化と人件費の適正化に直結するため、補助金審査での評価が高いカテゴリです。特に2024年4月施行の建設業・物流業の時間外労働上限規制(いわゆる2024年問題)への対応として、クラウド勤怠管理の導入ニーズが急増しています。

サービス名月額目安(1人)主な特徴対象規模
KING OF TIME300円多彩な打刻方法・高い拡張性全規模
ジョブカン勤怠管理200〜500円シフト管理一体型・飲食小売向け全規模
freee人事労務300〜600円freee会計連携・ワンストップ個人〜中小企業
マネーフォワード勤怠300円MFクラウド連携・API豊富中小〜中堅企業
Touch On Time300円生体認証対応・製造業に強い全規模

採択率UPのポイント:複数業務プロセスの組み合わせ

勤怠管理単体よりも、勤怠管理+給与計算+会計のように複数の業務プロセスをまとめて申請すると採択率が高まります。複数ツールを組み合わせることで「業務プロセス全体の効率化」を示せるため、事業計画書の説得力が増します。

在庫管理系SaaS

在庫管理のクラウド化は、製造業・小売業・EC事業者にとって大きな業務改善効果をもたらします。在庫の過不足による機会損失や廃棄ロスを削減し、キャッシュフローの改善に直結するため、補助金申請時の定量効果を示しやすいカテゴリです。

サービス名月額目安主な特徴対象業種
ロジザードZERO要問合せ(初期10万円〜)倉庫管理WMS・バーコード管理物流・EC
zaico0〜9,800円スマホで簡単在庫管理・無料プランあり全業種
スマレジ・タイムカード連携POS連動型POS売上と在庫を自動連携小売・飲食
アラジンEC要問合せBtoB EC+在庫管理一体型卸売・メーカー
TEMPOSTAR要問合せ複数モール在庫一元管理EC事業者

在庫管理SaaS導入の定量効果(事業計画書記載例)

在庫管理SaaSの導入効果として事業計画書に記載できる数値例:在庫棚卸時間を月10時間→2時間に80%削減、在庫回転率を年4回→6回に50%改善、過剰在庫による廃棄ロスを月10万円→3万円に70%削減、発注リードタイムを5日→2日に60%短縮。これらの定量的な目標を設定することで採択率が向上します。

CRM・顧客管理系SaaS

CRM(Customer Relationship Management)は顧客情報の一元管理・営業活動の見える化・マーケティング自動化を実現するクラウドサービスです。売上拡大に直結する業務改善効果が明確なため、補助金審査での評価が高いカテゴリです。

サービス名月額目安(1ユーザー)主な特徴対象規模
Salesforce Starter3,000円世界シェアNo.1・高い拡張性全規模
HubSpot CRM0〜5,400円無料プランあり・MA連携全規模
kintone780〜1,500円ノーコード・業務アプリ構築全規模
Zoho CRM1,680〜5,040円コスパに優れる・多機能中小企業
Sansan要問合せ名刺管理起点のCRM・国産中小〜大企業

CRM導入で期待できる効果

CRMの導入効果として一般的に報告されている数値:営業担当者の事務作業時間30〜50%削減、顧客対応のレスポンス時間50〜70%短縮、見込み客のフォロー漏れ80%以上削減、受注率10〜20%向上。これらの数値を自社の現状と照らし合わせて事業計画書に記載してください。

POSレジ系SaaS

クラウドPOSレジは、従来の据え置き型レジに代わるタブレット・スマートフォンベースの次世代POSシステムです。売上データのリアルタイム確認・在庫連動・会計ソフト連携・キャッシュレス対応など、飲食業・小売業のDXの入口として多くの中小企業が導入しています。

サービス名月額目安主な特徴対象業種
スマレジ0〜15,400円多機能・在庫管理・分析機能小売・飲食・サービス
Airレジ0円無料・リクルート連携飲食・小売
Square POSレジ0円決済一体型・海外対応全業種
USENレジ要問合せ飲食特化・オーダーシステム連携飲食業
ユビレジ6,900円〜売上分析・顧客管理一体型飲食・小売

POS導入時の注意:ハードウェア費用の扱い

POSレジの導入にはiPad等のタブレット端末やレシートプリンター、キャッシュドロワーなどのハードウェアが必要です。デジタル化・AI導入補助金ではハードウェアの購入費用も一定範囲で補助対象になる場合がありますが、枠・公募回によって条件が異なります。IT導入支援事業者に「ハードウェア費用も補助対象に含められるか」を事前に確認してください。

バックオフィス全般のSaaS導入についてはバックオフィスAI補助金ガイドでも解説しています。

IT導入支援事業者経由が必須

デジタル化・AI導入補助金でクラウドSaaSを導入する場合、IT導入支援事業者を通じて申請する必要があります。申請者が直接SaaSベンダーと契約するだけでは補助金の申請はできません。

IT導入支援事業者の役割

ツール提案

自社の課題をヒアリングし、最適なクラウドSaaSを提案無料

申請支援

事業計画書の作成支援・ポータルへの情報入力サポート共同申請

導入支援

初期設定・データ移行・操作研修の実施交付決定後

実績報告支援

導入完了後の実績報告書の作成支援事業完了後

アフターサポート

導入後の運用サポート・トラブル対応継続的

IT導入支援事業者の探し方

IT導入支援事業者は、デジタル化・AI導入補助金のポータルサイトで検索できます。「地域」「対応業種」「取り扱いツール」で絞り込みが可能です。また、導入したいSaaSベンダー(freee・マネーフォワード等)のWebサイトにもIT導入補助金の申請サポートページが用意されていることが多いです。

IT導入支援事業者選びの注意点

1. 複数社に相談する:1社だけでなく2〜3社に相談し、提案内容・費用・サポート体制を比較してください。
2. 導入実績を確認する:同じ業種・規模の企業への導入実績があるかを確認してください。
3. 費用の内訳を明確にする:IT導入支援事業者の手数料やマージンが見積もりに含まれているか、補助対象経費に含められるかを確認してください。
4. アフターサポートの範囲:導入後のサポート期間・対応範囲・追加費用の有無を事前に確認してください。

IT導入支援事業者の詳しい選び方についてはベンダー選びガイドで解説しています。

費用シミュレーション

クラウドSaaSをデジタル化・AI導入補助金で導入した場合の費用シミュレーションです。補助率・上限額は申請する枠や公募回によって変動しますので、参考値としてご活用ください。

パターン1:会計+勤怠の組み合わせ(小規模事業者)

freee会計スタンダード(2年)

月額3,980円 × 24ヶ月 = 95,520円クラウド利用料

freee人事労務(10名・2年)

月額3,000円 × 24ヶ月 = 72,000円クラウド利用料

初期設定・研修費

150,000円一括

補助対象経費合計

317,520円総額

補助金額(補助率1/2)

158,760円 → 自己負担 158,760円実質負担

パターン2:会計+CRM+勤怠の組み合わせ(中小企業・20名)

マネーフォワードクラウドERP(2年)

月額4,980円 × 24ヶ月 = 119,520円会計+経費+請求書

kintone(20名・2年)

月額1,500円 × 20名 × 24ヶ月 = 720,000円CRM・業務管理

KING OF TIME(20名・2年)

月額300円 × 20名 × 24ヶ月 = 144,000円勤怠管理

初期設定・研修・コンサル費

500,000円一括

補助対象経費合計

1,483,520円総額

補助金額(補助率1/2・上限350万円)

741,760円 → 自己負担 741,760円実質負担

パターン3:POS+在庫管理(飲食・小売業)

スマレジ プレミアムプラス(2年)

月額8,800円 × 24ヶ月 = 211,200円POS+在庫

弥生会計オンライン ベーシック(2年)

年額36,000円 × 2年 = 72,000円会計連携

POS周辺機器(プリンター等)

100,000円ハードウェア

初期設定・研修費

200,000円一括

補助対象経費合計

583,200円総額

補助金額(補助率1/2)

291,600円 → 自己負担 291,600円実質負担

インボイス枠を活用する場合

インボイス制度対応を主目的とする場合は、インボイス枠(補助率3/4〜4/5、上限50万円)の方が有利になるケースがあります。例えば、会計ソフト単体で年額5万円程度の導入であれば、インボイス枠の補助率4/5を適用して4万円の補助を受ける方が、通常枠の補助率1/2で2.5万円の補助を受けるよりも有利です。導入規模に応じて最適な枠を選択してください。

採択率UPのコツ

デジタル化・AI導入補助金でクラウドSaaSの導入を申請する際、採択率を高めるためのポイントを解説します。事業計画書の書き方やベンダーとの連携方法など、実践的なコツをまとめました。

採択率を高める5つのポイント

ポイント1

複数の業務プロセスの改善を示す重要度:高

ポイント2

定量的な導入効果を具体的な数値で記載する重要度:高

ポイント3

IT導入支援事業者と事前に十分な打ち合わせを行う重要度:中

ポイント4

加点項目(SECURITY ACTION二つ星等)を取得しておく重要度:中

ポイント5

現状の課題を具体的かつ定量的に記載する重要度:高

ポイント1:複数の業務プロセスの改善を示す

会計ソフト単体の導入よりも、「会計+勤怠+給与」「CRM+請求書+会計」のように複数の業務プロセスをまとめて改善する計画の方が採択率が高い傾向があります。IT導入補助金は「ITを活用した業務プロセス全体の効率化」を支援する制度のため、単一ツールの導入よりも複数ツールを連携させた包括的なDX計画が評価されます。

ポイント2:定量的な導入効果を記載する

事業計画書には「効率化が期待できます」ではなく、具体的な数値目標を記載してください。例:「月次経理工数を現在の40時間から10時間に75%削減」「売上データの集計時間を1日から30分に短縮」「在庫回転率を年4回から6回に改善し、在庫保管コストを年間60万円削減」など。現状値の根拠(過去の作業ログ、タイムシート等)も添えると説得力が増します。

ポイント3:IT導入支援事業者と事前に十分な打ち合わせを行う

IT導入支援事業者は補助金申請の「パートナー」です。事前に自社の課題・業務フロー・導入したいツールについて十分に打ち合わせし、事業計画書の内容を一緒に練り上げましょう。IT導入支援事業者の経験・ノウハウを活かすことで、審査員に伝わりやすい計画書を作成できます。

ポイント4:加点項目を取得しておく

デジタル化・AI導入補助金にはSECURITY ACTIONの★★二つ星をはじめ、いくつかの加点項目があります。これらを事前に取得・満たしておくことで、同点の場合に優先的に採択される可能性が高まります。セキュリティ対策との連携についてはセキュリティ対策推進枠ガイドもご覧ください。

ポイント5:現状の課題を具体的に記載する

「業務が非効率である」という抽象的な記載ではなく、「Excelで売上管理をしており、月末の集計に2日かかっている。入力ミスが月平均3件発生し、訂正に半日を要している」のように、現状の課題を数値と具体的なエピソードで記載してください。課題が具体的であればあるほど、導入効果の説得力も高まります。

申請前のチェックリスト

1. GビズIDプライムを取得済みか
2. SECURITY ACTION宣言(★一つ星以上)を完了しているか
3. 導入するSaaSがIT導入補助金の登録ツールリストに掲載されているか
4. IT導入支援事業者を選定し、打ち合わせを完了しているか
5. 事業計画書に定量的な現状値と目標値を記載しているか
6. 交付決定前にサービスの契約・支払いを開始していないか